3.建築家って?
4.設計事務所の役割
5.設計事務所が設計すると高いのでは?
6. 建築家の設計した家は使い難くないか?

1.建築ってなんだろう
1.建築ってなんだろう

 建築は西洋では総合芸術と言われてきました。
美術・物理学・天文学・医学等様々な要素が絡み合って出来
上がった形と言えます。しかし、そう難しく考えると取っ付
き難い存在になってしまいます。僕が目指す建築とは、もう
少し体に馴染むもの、生活の中に自然と入って行くものです。
日常的に感じれるもの。そう言う身近な存在としての建築が
創れたら良いと思っています。
  
 一番わかり易い建築としてはやはり住宅という事になるで
しょうから、住宅に絞って話を進めて行きます。
  
 そもそも住宅とはどういうものでしょうか。俗に言う「家」
のことですが、では一体「家」とはなんなのか?雨風をしの
いで生活をするところですね。しかし、「家」はそれだけで
はなく他にもいろいろな役割を持っています。そこに住まう
人の“生活”そのものに関わるとても大切な空間なのです。良
きにつけ悪しきにつけ知らず知らずのうちにその人の中に影
響を及ぼすこともあります。それくらい重要な物であり、デ
リケートな物です。僕も設計と言う業務に携わる者としてい
つも気にかけている事です。
  
 良く言われる事として「夏は涼しく、冬は暖かい家」とい
う事がありますが、建物だけでそれを実現する事はかなり難
しい事です。当然コストに直接関係してくることですし、そ
れなりの設備も必要となる事もあります。誤解の無いように
補足しておきますと、建物それ自体は外壁や屋根の断熱、窓
にペアガラスを使うことでそれなりの効果を得る事が出来ま
す。しかし、冬に暖かいと言う事は、逆に夏には暑いと言う
事にも繋がる可能性があります。その時はエアコンでと言う
単純な事では解決にならないでしょう。では、どうすれば良
いのか。やはり風が良く抜け、熱が逃げるように考えていか
なければいけないでしょう。つまりこう考えるわけです。冬
には暖かい光を入れる事で暖かくする、夏には風を通して涼
しくする。窓の役割としては他にも光をどう入れるか、そこ
から何が見えるのかと言う事もあります。こう言う事を一つ
一つ考えて行く行為が設計をするという事なんです。窓の大
きさや形もただ光が入れば良いと言う事ではありません。家
具の配置にも大きく関わってきます。これに、仕上げは何に
するか、照明器具は、コンセントは、等様々な事が複合的に
絡み合って最終的な答えとしての「家」が完成するのです。
  
 こういうと凄く大変な事のように思われてしまいますが、
実際も大変です。冗談ですよ。この作業を楽しんでもらえる
事が一番良いのです。舵取りは僕がします。実現に向けて夢
を膨らませてくれたら良いのです。建築って奥は深いかも知
れませんが以外と身近なもので、面白いものなんです。僕は
そのお手伝いが出来たら良いと思っています。お互いの協力
があってこそ、素敵な物が生まれてくるのです。

 僕が好きな建築家の村野藤吾氏が良く言っていた事に「私
は、プレゼンティストですから99パーセント施主の言う事を
聞いています。」と言う言葉がありましたが、ある講演会で
「実際は私は99パーセント言う事を聞いていません。」と冗
談交じりに言われた事がありました。しかし、その後に言わ
れた言葉を聴いて本当の意味が分かりました。「99パーセン
ト言う事を聞いても、1パーセント村野が残る。そして、そ
の1パーセントが全体を支配するかも知れない。」 まさに
“目から鱗が落ちる”思いでした。そうなんですよね。お施
主さんと話をして希望に合うようにしていっても、僕が創る
空間にはやはり僕の色が残るんです。だから無理に、自己主
張なんかしなくても僕はそこに存在するのです。それが一緒
に“家を創る”と言う事になるのです。そう考えると自然に
肩から力が抜けてきます。中には自分の考えだけを押付ける
人もいるようですが、それではバランスの取れたものは出来
にくいでしょう。バランス感覚の無い人はこの仕事には向い
ていないと言わざるを得ません。建築はそこに在って自然と
何かを発信しています。目立つとか、奇抜である必要はあり
ません。村野氏の言うように、たった一つの建物がそこの街
並みを作り、街全体を支配する事もあるでしょう。それが良
い形に影響する事こそが、僕の目的であり望みです。勿論、
そこに暮らす人がだんだん良い顔になってくれるも大切な事
です。視角から来る物よりも感じるものを大事にして行きた
いです。
  
 僕がいつも心がけている事は、“快適な家作り”ではありま
せん。“快適”と言うと前述の「夏は涼しく、冬は暖かい」的
だったり使い易いと言った言葉でしか表現できないように思
います。僕は具体的に機能がどうとかではなく、それらの物
も含めた広い意味での“気持ちの良い空間”を目指しています。
“気持ちが良い”とは何か?
言葉で説明する事は難しいですが“感じるもの”だと思います。
気持ちが良いと感じる。そこには、具体的なものだけでなく
空間から出てくるもの、時間の流れの中に感じるもの、ふと
した瞬間に感じるもの、それらの物を大切にして行きたいで
す。ですから、家にずっと居るようなのは僕の言う“気持ち
の良い空間”ではありません。外に遊びに行く事もあるし、
逆に人を集める事もあるでしょう。その帰ってくる場所や中
心となるのが家なのです。その空間が何となく気持ちが良い
と感じてもらえる事が理想です。肌で触れ、時間を過ごし、
頭ではなく体が感じる気持ちの良さ。それを大切にした建築
が本当の建築なのではないでしょうか。


2.家を作る時には何をしたら良いのか

 殆どの人にとって家作りは初めての経験でしょうから、一
体どうした良いのか分からない事でしょう。心配は要りませ
ん。それを形にしていくのが僕の仕事です。事前に家という
物に興味を持ってくださる事は嬉しい事ですが、絶対に必要
という事はありません。では何が一番必要な事なのか。それ
はお互いが理解しあう事です。その為には、隠し事をしない
で話をする事です。格好悪いからとか、恥ずかしいからと言
って話してもらえないと、本当にその人に合った家を作る事
は出来ません。僕は出来る限り今生活をしておられる状態を
見せてもらいます。その人の趣味や持ってくる家具の大きさ
を調べるだけではなく、具体的にその家(又はマンション)
の何処が不便かとかそう言う事を聞けるからです。そこで共
通の認識を持つことが出来ます。それともう一つ大切なのが
持ち物全体の量を把握する事。大抵の場合は奥様には嫌がら
れますが、構わなければ押入や物入れも開けて見せてもらい
ます。ここで大切なのは、本当は片付けないでいて欲しいの
ですがまずそれは無理です。(笑)片付けがどの程度できる
のかを見たいのですけどね。いくら打ち合わせに行く時には
綺麗にしていても、普段は片付けベタで散らかっているので
あればそれに合わせた収納が必要だからです。ですからせめ
て言葉だけででも伝えてもらえれば結構です。隠さないでく
ださいね。
 
 最初に話を聞くと「私は家の事なんて全然わからないし、
こういう感じが良いって言うイメージも無いんです。」とか
「特別好みとかはありません。」と仰る方がいますが、誰で
も好き嫌いが無いと言いながら「こっちとあっちのどちらが
お好きですか?」と聞くと、ちゃんと「こっち」とか「あっ
ち」と答えます。それは具体的に言えなかったり、表現が出
来なかっただけで、具体的に示せばみんなちゃんと自分の家
に対する方向性は持っているのです。会話をしているうちに
自然と出てくるものです。それを見つけ出して、形にしてい
く事が僕の役目です。難しい事ではありません、少しだけ素
直に自分を出してくれたらそれで良いのです。

 具体的な家の話だけではなく、趣味や生活の仕方なども話
ができると良いですね。お互いにまだよく理解できないでし
ょうから会話をしていくうちに、どういう暮らし方をしてど
うしたいのか、どんな性格なのか、そんな事が理解できると
後話はスムーズに進んで行きます。どんなところに家作りの
ヒントがあるか分かりません。自分では気付いていない事も
あります。理解しあい、信頼関係を作る事がなによりも大切
です。


3.建築家って?


 最近では、TVや雑誌を中心として様々なメディアで「建
築家」と言う言葉を目にしますが、本当の意味での建築家と
呼べるのはほんの一握りの人達だけです。勿論僕も自分を
「建築家」などとは思っていません。一人の「建築士」です。
ただ、仕事上の相手のメディアに載せる場合には「建築家」
と言う事にしないといけないのでそうなっているだけです。
もともと僕は、「先生」などと呼ばれる事も嫌な方で、業者
さんたちが勝手に呼ぶのはそう呼ばせています。彼らは逆に
そう呼ばないといけないからそう呼んでいるだけなのです。
困った風潮です。ですから、お施主さんからは一般的には
「坪内さん」と呼ばれる事のほうが好きですね。それの方が
より親密なお付き合いをしているようで好感が持てます。
  
 話はそれましたが、とりあえず「建築家」と言う事にして
話を進めて行く事にしますと、建築家とはどういう人なので
しょうか。僕の考えでは自分の考えを形に表現できる人。施
主の要望・法規制・周辺との調和・将来へのビジョンなど、
様々な事を調整しつつも自己表現のできる人。それが「真の
建築家」ではないでしょうか。あまりにも簡単に言い過ぎた
かもしれませんが、実際それだけの事をするのには大変な能
力が必要です。
  
 もう少しわかり易く「建築士」として話していきます。建
築士と言うと職人さんみたいですが、実際もそうかもしれま
せん。空間を創り出す職人ですね。僕はあえてここで“空間”
と言う言葉を使います。“部屋”しか作れない人が沢山います。
平面図だけ見ても“空間”はわかりません。
  
 しかし、我々は平面図を書いているときに既に立体をイメ
ージしながら書いているわけです。この立体イメージさえ描
けない人は「建築家」はおろか僕が言うところの「建築士」
でもなく、「建築屋」さんなのです。自分の中に“空間”を描
いて、それを作る為に図面を作成しているのであって、図面
を書いてからイメージを作るのではないです。平たく言えば、
空間を作り事が上手な職人さんです。皆さんにも得手不得手
があるように、僕はここのところが得意なだけです。そう考
えてもらえれば、何も特別な存在とかではなく、一つの職業
なのです。


4.設計事務所の役割

 設計事務所がどんな事をするのか大まかに説明すると
 
 1. 設計図面の作成業務
 2. 役所・諸官庁への申請・届出の代理業務
 3. 工事施工業者との工事請負契約に関する協力業務
 4. 現場監理業務
 
   以上のようなものが有ります。
 
 この中でも中心となるのは、やはり設計と監理業務です。
打合せによってそれぞれの希望にあったプランを考えて図面
化し、その図面に基づいて工事がなされているかをチェック
して行きます。当然、法規制に抵触していないか等のチェッ
クもします。構造的な事、設備的な事もそれぞれ専門の人達
とも打合せをして進めます。工事施工業者と交渉したり、指
導したりしながら適切に工事が行われるように監理する事も
業務の内です。図面の中だけではわかり難い部分も有ります
から、現場で定期的な打合せを行ったりして常に状況の把握
をします。一般の方が直接業者と折衝するとこは大変ですし、
工事がどのようになされているかを把握するなどまず無理で
しょう。設計事務所というのは施主の代理人と言う立場です
から、当然施主側にたって工事を監理します。手抜き工事な
どを防止する事は当然ですが、わかりにくいのは悪意の無い
間違いです。これは法的な事とか打ち合せの内容を把握して
いない為に起こるケースです。やっている方は正しいと思っ
ているから余計に発覚しにくいのです。こういうケアレスミ
スを防ぐ事は意外と大変なことで、出来た後では修正できな
かったり、大変なお金が掛かって誰が払うのかといった事に
なります。地味なようですがこれも設計事務所の大切な仕事
です。


5.設計事務所が設計すると高いのでは?

 これはよく誤解されている話です。実際、設計事務所が設
計するから高いという事はありません。それは設計料が掛か
るからとか、難しい事を言うから高くなるのだと思われてい
ます。本当に部屋の大きさだけがあって仕上げ等も気にしな
いというのであれば、はっきりって建売住宅とかをお買いに
なった方が安くて良いでしょう。そのレベルで考えられたら
確かに設計料の分だけ高くなるように思われるでしょう。
  
 では、何が違うのかと言えば、前述したように僕達は空間
を創っている事でしょう。その空間を創る為に、それに合っ
たプランを考え、材料を選んでいるのです。ちょっとした事
で随分と出来上がりは違ってきます。しかし、悲しいかな二
つ作って比べる事は出来ないのでその差と言う物は個別に見
るしかありません。勿論、工事の仕方や材料の選び方も、コ
ストが安くて質の良い物を探して決めて行きます。平面図の
上では同じように見えてもより良いもので構成し、質の高い
空間を提供します。つまり作っているものが違うとも言えま
す。そこに差異を見出してください。
  
 コスト面でも一番気になる設計料は、通常建築工事費の10
パーセントが目安です。これは木造2階建ての住宅の場合と
お考えください。構造がRC造だったり鉄骨造の場合は構造計
算の費用が別に掛かります。また、建物の規模や諸条件によ
ってもこの比率は前後します。詳しい事はそれぞれのケース
にあてはめてみなければわかりません。この設計料の分が割
高になると考える事は間違いです。どうしてかと言うと、仮
に僕が設計した物と全く同じ物を作るとしたら逆にその金額
では出来ないでしょう。僕達が間にいる事で施工業者に対し
て契約書の内容の査定・調節をします。単純に値切るという
ことではありません。正当な金額にするといった方が良いか
も知れません。なにも施工業者がぼったくっていると言うの
ではなく、正当な利益で契約できるように交渉するのです。
それと、一般に建売住宅には、これに広告・営業経費が掛か
っています。それらの物をトータルに計算すれば、設計事務
所が設計すると高くなると言う事は言えなくなります。設計
事務所が設計・監理した物の方がコストパーフォーマンスは
高いと言えます。


6.建築家の設計した家は使い難くないか?

 これもよく誤解を受けている事です。建築家が作ったから
使いにくいと言う事はありません。見学会だとか知り合いの
人の家を見てそう思われた時は、余計にそう感じるかも知れ
ませんが元々建築家が設計する場合は、そこに住まれる方の
為に特別に作ったものですから万人にとって住み易いと言う
訳ではないでしょう。こう考えたら理解しやすいと思います。
建売住宅とかに代表される家と言うのは既製の吊るしの服で
すから大体のサイズでもって誰でも着れます。でも完全にフ
ィットするわけでもなくどこか物足らない部分もあるでしょ
う。一方、建築家の創る家と言うのはオーダーした服です。
ですから体にしっくりときますが、違う人が着た場合は馴染
みにくい事もあります。本人の体のサイズに合わせて作って
いるのだから当たり前でしょう。家もこれと同じでそれぞれ
の希望や体格、趣味や生活のリズムによって違って当たり前
なんです。フリーサイズで作る部分もあるでしょうし、オー
トクチュールの部分もあります。ただし、いくらオーダーメ
イドといっても限度があります。持ち込みの家具や家電等を
嵌め込んだりすることはありますが、何処もかしこも決めき
った寸法や形にする事はお勧めしません。人も住みながらに
して変わっていくものです。多少の柔軟性やゆとりは必要で
しょう。オリンピック選手のユニフォームのようにその時に
だけピッタリ合えば良いと言うものではないですから。変化
を見越したプランニングや可変性は必要だと思います。部屋
の模様替えも気分が変わって良い事です。そう云う事も考え
てくれる建築家と出会うことが大切です。
  
 間違えたオーダーをしない為には、初めにも言ったように
とにかく話し合うことです。話をする事を嫌がるような建築
家は避けたほうが良いでしょう。疑問があれば遠慮せずに聞
く事です。こういう言い方をするのは良くないでしょうが、
建築家もパーフェクトではありませんし、たまたま気が付い
ていない事や間違えもあります。それをちゃんと聞き入れて
軌道修正して行く事の方が大切です。納得するまで話し合い、
お互いが力をあわせて協力してゆく事こそが、満足の行く家
を作る一番の近道です。



 
2.家を作る時には何をしたら良いのか
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